会話が減ったと感じたら 熟年夫婦の心を繋ぐ「問いかけ」と「聴き方」
熟年夫婦の間に生まれた「沈黙の時間」に寄り添う
お子様が独立され、夫婦二人きりの時間が増えたというご家庭は少なくないでしょう。これまでの慌ただしかった日々が落ち着き、ゆったりとした時間を持てるようになった方もいらっしゃるかもしれません。一方で、共に過ごす時間が増えたはずなのに、かえって夫婦間の会話が減ってしまった、あるいは必要最低限の事務的な会話しかなくなってしまった、と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
長年連れ添った関係だからこそ、「言わなくても分かるだろう」「今さら話すことなんてない」と感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、こうした会話の減少が、お互いの気持ちのすれ違いや、ほんの少しの寂しさにつながる可能性も考えられます。これからの人生を共に心地よく過ごすためにも、改めて夫婦のコミュニケーションについて考えてみることは大切な一歩となります。
ここでは、熟年夫婦が経験しやすい会話の課題に焦点を当て、日常に再び心地よい言葉のやりとりを取り戻すための「問いかけ」と「聴き方」のヒントをお伝えします。
なぜ、会話は減ってしまうのか?
夫婦の間に会話が減ってしまう理由はいくつか考えられます。
- 生活の変化: お子様の成長や独立、あるいはご自身の定年など、ライフステージの変化により、共通の話題や一緒に取り組む事柄が減ることがあります。
- 長年の慣れ: お互いの考えや行動パターンがおおよそ把握できるようになり、「話さなくても大丈夫」という安心感が、かえって積極的なコミュニケーションを減らす場合があります。
- 共通の関心の減少: 若い頃は同じ趣味や目標を共有していても、時間の経過と共にそれぞれが別の関心を持つようになることもあります。
- 過去の積み重ね: これまでの関係性の中で、うまく伝えられなかったことや、言っても理解されなかった経験があると、「どうせ話しても無駄だ」という諦めや遠慮が生まれることがあります。
これらの理由が複合的に絡み合い、夫婦の間に自然と「沈黙の時間」が増えてしまうことがあります。しかし、これは特別なことではなく、多くのご夫婦が経験し得る状況です。大切なのは、この状況を悲観するだけでなく、「これからどうしたいか」という視点を持つことです。
心地よい会話を取り戻すための第一歩:「問いかけ」
会話を始めるきっかけとして有効なのが「問いかけ」です。ここでいう「問いかけ」は、相手を試すようなものや、詰問するようなものではありません。相手に関心を持ち、相手が無理なく自分の内側にあるものを言葉にできるような、穏やかで開かれた問いかけです。
例えば、以下のような問いかけは、会話の糸口になりやすいかもしれません。
- 「今日の天気で、何か感じたことや気づいたことはありますか?」
- 単なる天気の確認ではなく、それに対する相手の感覚や思いを尋ねる問いかけです。小さなことでも、相手が感じたことに焦点を当てることで、日常の共有が生まれます。
- 「最近、何か新しく知って面白かったことはありますか?」
- ニュース、本、テレビ、近所の出来事など、相手が関心を持っていることや、日々の生活の中で出会った新しい情報について尋ねます。これにより、相手の興味の対象を知ることができます。
- 「あの時(過去の楽しい思い出)のこと、改めて考えてみてどう思いますか? 特に印象に残っている場面はありますか?」
- 共通の良い思い出を振り返る問いかけは、ポジティブな感情を共有し、温かい雰囲気を作り出すことがあります。
- 「これから、何か一緒にやってみたいことや、行ってみたい場所はありますか?」
- 将来に向けて、ささやかでも共通の楽しみを見つけようとする問いかけです。すぐに具体的な計画にならなくても、互いの希望を知る良い機会となります。
問いかけのポイント:
- 答えやすい形で: 「はい/いいえ」だけで終わらないような、少し開かれた質問を心がけると、話が広がりやすくなります。
- 関心を持って: 形だけではなく、相手の話を聴きたいという気持ちを持つことが大切です。
- 相手のペースで: すぐに答えが出なくても焦らせず、相手が話したいと思った時に話せるような雰囲気を作ります。
これらの「問いかけ」は、普段の挨拶や家事の合間、食卓など、日常の様々な場面で試すことができます。
「聴き方」で会話を育む
問いかけと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが「聴き方」です。相手が安心して話せるかどうかは、聴き手の態度に大きく左右されます。
心地よい会話を育むための「聴き方」のヒントをいくつかご紹介します。
- 体と心で聞く: 相手の方に体を向け、目を見て(無理のない範囲で)、うなずきや相槌を適度に打ちながら聞きます。スマートフォンなど、話の途中で気が散るものは避け、相手に注意を向けます。
- 相手の言葉を繰り返す: 相手が言ったことの要約や、印象に残った言葉を繰り返してみることで、「あなたの話をちゃんと聞いていますよ」というメッセージが伝わります。(例:「つまり、〇〇ということですね」「~だったのですね」)
- 感情に寄り添う言葉を添える: 相手が嬉しそうなら「それは良かったですね」、大変そうなら「それはお疲れ様でしたね」など、言葉にできない相手の感情に寄り添うような短い言葉を添えます。
- 最後まで聞く: 相手の話の途中で自分の意見を挟んだり、話を遮ったりせず、相手が話し終えるまでじっくりと聞きます。
- 否定しない: 相手の意見や感想が自分のものと違っても、すぐに否定したり、「それは違う」と頭ごなしに言ったりすることは避けます。「そういう考え方もあるのですね」と受け止める姿勢が、相手の安心につながります。
聴き方のポイント:
- 「正解」を求めない: 相手の話を評価したり、間違いを指摘したりする場ではありません。ただ、相手が話したいことを話せる安全な場であること。
- 「共感」の姿勢: 完全に同意できなくても、相手がそう感じていること自体に理解を示そうとする姿勢が大切です。
小さな積み重ねが、新たな風を運ぶ
会話が減ってしまった状況は、決して一日で改善されるものではありません。また、これらの「問いかけ」や「聴き方」を試しても、すぐに劇的な変化が見られるとは限りません。大切なのは、完璧を目指すのではなく、できることから少しずつ、継続してみることです。
例えば、一日に一度、お互いに今日の出来事で一番小さな「へえ」と思ったことを話してみる時間を持つ、というような、ご夫婦にとって無理のない、小さな習慣から始めてみるのも良いでしょう。
また、会話は言葉だけではありません。一緒にいる空間で穏やかに過ごす時間、お互いを気遣う態度、感謝の気持ちを伝えることなども、大切なコミュニケーションの一部です。
「問いかけ」と「聴き方」を意識することは、お互いへの関心を再確認し、長年の関係性の中に新たな風を吹き込むきっかけになるかもしれません。これから先の人生を、より心地よく、心通わせながら歩んでいくためのヒントとして、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。