「今の自分」を伝え合う 熟年夫婦の日々の変化を共有する対話のヒント
熟年夫婦の「今の自分」を伝え合うことの大切さ
長い年月を共に過ごされた熟年夫婦の中には、お互いのことをよく理解している、あるいは理解できているはずだ、と感じている方も多いかもしれません。しかし、人生のこの時期には、仕事からの引退、子育ての卒業、趣味や健康の変化、親の介護など、さまざまなライフイベントや心境の変化が訪れます。こうした変化は、自分自身だけでなく、パートナーにも影響を与えています。
会話が減り、日々の出来事を細かく話し合わなくなった結果、知らず知らずのうちに、相手に対するイメージが過去の情報のまま更新されず、現在の相手の本当の姿や感じ方から少しずつズレが生じている場合があります。このズレが、小さなすれ違いや、時には大きなわだかまりの原因となることもあります。
この時期だからこそ、改めてお互いの「今の自分」を伝え合うことが、心地よい関係性を続けるために非常に大切になります。過去の固定観念を手放し、現在の相手に関心を持つことから、対話は始まります。この文章では、熟年夫婦が日々の小さな変化や心境を共有し、現在のパートナーを理解するための対話のヒントについてご紹介します。
なぜ「今の自分」を伝え合うことが大切なのか
長年一緒にいると、「言わなくても分かるだろう」という無言の了解や、「いつものことだから」と共有を省いてしまうことが増えるかもしれません。しかし、人は常に少しずつ変化しています。興味の対象が変わったり、体調に変化があったり、将来について漠然とした不安や希望を抱いたりすることもあります。
こうした「今の自分」を伝え合うことで、以下のような良い影響が期待できます。
- 相手への理解が深まる: 過去のイメージではなく、現在の相手が何に興味を持ち、何を考え、どう感じているのかを知ることができます。
- 新たな共通点や関心の発見: 相手の現在の関心事を知ることで、共通の趣味を見つけたり、新しい話題で盛り上がったりする機会が生まれるかもしれません。
- 互いへの尊重と承認: 「今の自分」を話すことは、相手に自分を理解してほしいという願いであり、相手の話を聴くことは、相手の存在を尊重し承認することにつながります。
- 将来への備え: 健康や経済状況、今後の暮らしに対する考えなど、変化しやすい事柄について日頃から共有することで、いざという時の話し合いもスムーズに進めやすくなります。
日々の小さな変化や心境を共有するための対話のヒント
では、具体的にどのように日々の変化や「今の自分」を伝え合えば良いのでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。
1. 「今日の小さな出来事」を話してみる
特別なことでなくとも構いません。例えば、
- 「今日、散歩中に見つけた花がきれいだったよ」
- 「テレビでやっていた〇〇のニュースを見て、こう感じたんだ」
- 「スーパーで面白い商品を見つけたよ」
- 「友人からこんな話を聞いて、少し考えさせられたよ」
など、日常の中の「ふと感じたこと」「気になったこと」を言葉にしてみましょう。話す側は、ただ事実を述べるだけでなく、「なぜそう感じたのか」という自分の内面を少しだけ添えると、相手はより深く理解しやすくなります。
2. 「どう思う?」と相手の意見や感情を尋ねる
自分の話をした後に、「あなたはどう思う?」と相手に問いかけてみるのも良い方法です。また、何か共通の出来事やニュースについて、「これについて、どう感じた?」と相手の心境を尋ねてみましょう。
問いかけられた側は、自分の感じていることを言葉にする練習になります。尋ねる側は、自分とは異なる相手の見方や感じ方を知る機会になります。「そういう風に感じたんだね」「なるほど、そういう考え方もあるんだ」と、相手の意見や感情を受け止める姿勢を示すことが大切です。
3. ポジティブな変化も、そうでない変化も共有する
新しい趣味を始めた、健康診断の結果が良かった、といったポジティブな変化はもちろん、少し体の調子が気になる、将来について漠然とした不安がある、といった、話しにくいと感じるかもしれない変化や心境も、穏やかに共有することを試みてみましょう。
特に体の変化や将来への不安は、一人で抱え込まずにパートナーと共有することで、気持ちが楽になったり、二人で一緒に考えたり支え合ったりするきっかけになります。ただし、相手に心配をかけたくない、という気持ちもあるかもしれません。まずは「ちょっと話しても良い?」と相手の準備を確認したり、落ち着いたトーンで伝えたりすることを心がけましょう。
4. 「当たり前」になっていることを言葉にする
長年一緒にいると、感謝や労いの気持ちも「言わなくても分かっているだろう」と省略されがちです。しかし、改めて言葉にすることで、相手は「自分のことをちゃんと見ていてくれているんだ」と感じ、安心感や幸福感を得やすくなります。
例えば、「いつも〇〇してくれてありがとう」「今日の〇〇、助かったよ」「あなたがいてくれて心強いよ」など、日常の中の小さな「ありがとう」や「ねぎらい」を意識して伝えてみましょう。
5. 相手の話を「聴く」姿勢を大切にする
自分が話すことと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが、相手の話を「聴く」ことです。
- 相手が話している間は、途中で遮らずに最後まで聴くように心がけましょう。
- 相手の目を見て、相槌を打ちながら聴くと、関心を持って聴いていることが伝わります。
- 相手の感情に寄り添い、「それは大変だったね」「嬉しい出来事だったね」など、共感の気持ちを言葉にしてみるのも良いでしょう。
- 話の内容について、自分の意見やアドバイスをすぐに伝えるのではなく、まずは「そう感じたんだね」と受け止めることから始めましょう。
まとめにかえて
熟年期は、夫婦が互いを改めて知り、関係性を再構築する大切な時期です。日々の小さな変化や「今の自分」を伝え合い、相手の「今」に耳を傾けることから、心地よい二人の未来はつくられていきます。
もちろん、長年の関係性の中で、すぐにスムーズな対話ができるとは限りません。過去のわだかまりが邪魔をしたり、どう話せば良いか分からなかったりすることもあるかもしれません。焦らず、できることから、お互いを思いやりながら試してみることが大切です。
完璧な対話を目指すのではなく、まずは「今日の出来事どうだった?」と優しく問いかけてみたり、自分が感じたことを少しだけ言葉にしてみたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。日々の小さな対話の積み重ねが、きっとお二人の関係性をより豊かにしてくれるはずです。