感情的にならずに伝える 熟年夫婦の不満・期待の穏やかな話し方
熟年期に感じる「言えない」「伝わらない」という悩み
長年連れ添った夫婦関係において、日々の生活の中で相手に対する小さな不満や、あるいは「こうしてほしい」という期待を抱くことは自然なことです。特に、子育てを終え、夫婦二人きりの時間が増えた熟年期には、これまで見過ごしてきた些細な違いや、新たなライフスタイルに対する期待などが、より明確になる場合があります。
しかし、これらの感情をどのように伝えれば良いのか分からず、「言っても無駄だ」「どうせ理解してもらえないだろう」と諦めてしまったり、あるいは感情的になってしまい、かえって関係性がこじれてしまったりすることもあるかもしれません。言わずにため込むと、それがわだかまりとなり、二人の間に溝を作ってしまう可能性も考えられます。
ここでは、熟年夫婦が日々の不満や期待を、感情的にならずに穏やかに伝え合い、互いの理解を深めるための話し方や聴き方のヒントについて考えていきます。
なぜ、穏やかに伝えることが難しいのか
熟年夫婦の間で、感情的にならずに不満や期待を伝えることが難しく感じられるのには、いくつかの理由が考えられます。
一つは、長年の関係性ゆえの「甘え」や「諦め」です。「これくらい言わなくても分かってくれるだろう」という期待がある一方で、過去に伝えてもうまくいかなかった経験から「どうせ言っても変わらない」という諦めが生まれることがあります。
また、「言わなくても察してほしい」という、いわゆる「阿吽の呼吸」を過度に期待してしまう文化的な背景もあるかもしれません。言葉にせずとも分かり合える関係性は素晴らしいものですが、全ての期待や感情を非言語で伝え合うことは現実的ではありません。
さらに、感情が先立ってしまうと、相手は攻撃されていると感じ、身構えてしまいがちです。建設的な対話の機会が失われ、かえって関係性が悪化してしまうことも少なくありません。
不満や期待を穏やかに伝えるための「話し方」
日々の小さな不満や期待を、感情的にならずに相手に伝えるためには、いくつかの具体的なステップを踏むことが役立ちます。
ステップ1:自分の感情と向き合う
まず、自分が何に対して、どのような感情(例:不満、悲しみ、不安、期待)を抱いているのかを具体的に認識することから始めます。漠然とした不満ではなく、「どのような状況で、何に対して、どう感じたのか」を自分自身の中で整理します。
ステップ2:「I(アイ)メッセージ」で伝える練習
相手を主語にした「あなたは〜しない」「あなたはいつも〜だ」という「You(ユー)メッセージ」は、相手を責めているように聞こえやすく、反発を招きやすいものです。
代わりに、「私は〜と感じている」「私には〜と映った」のように、自分自身を主語にした「Iメッセージ」で伝えることを意識します。「あなたが約束の時間に遅れたので、私は心配しました」のように、「起きた事実」と「それに対する自分の感情」をセットで伝える練習をします。
ステップ3:伝えるタイミングと場所を選ぶ
感情的にならずに話すためには、落ち着いて話せる時間帯や場所を選ぶことが重要です。食事中や相手が疲れている時、テレビを見ている最中などは避け、二人でじっくり話せる静かな時間を持つように心がけます。
ステップ4:具体的かつ建設的に伝える
抽象的な不満(例:「あなたは協力的じゃない」)ではなく、「〜の件で、〜してもらえると助かります」のように、何について話し、どうしてほしいのか(あるいはどうしたいのか)を具体的に伝えます。また、過去の出来事を持ち出しすぎず、現在の状況と今後のことについて話すように意識すると、より建設的な対話につながりやすいでしょう。
穏やかに「聴く」ことの重要性
コミュニケーションは、話すことと聴くことの両方で成り立ちます。自分が穏やかに伝えようと努力すると同時に、相手が伝えようとすることに耳を傾ける姿勢も非常に重要です。
相手の話を遮らずに最後まで聴くこと。相手の言葉の裏にある感情や意図を理解しようと努めること。全てに同意できなくても、「〜というように感じているのですね」と、相手の言葉を繰り返したり、共感の姿勢を示したりする「傾聴」の技術は、お互いの安心感につながります。
相手が感情的になってしまった場合でも、そこで一緒に感情的になるのではなく、一旦相手の感情を受け止める(話を聞く)ことで、相手が落ち着きを取り戻し、対話が可能になる場合があります。
日々の積み重ねが、心地よい関係を作る
不満や期待を穏やかに伝え合う技術は、すぐに身につくものではないかもしれません。時にはうまくいかないこともあるでしょう。しかし、大切なのは、伝えよう、理解しようというお互いの気持ちと、日々の小さな努力の積み重ねです。
完璧なコミュニケーションを目指すのではなく、昨日より少しでも穏やかに話せた、相手の話を少し長く聴けた、といった小さな変化を意識し、お互いの努力を認め合うことも大切です。
熟年期は、夫婦二人のこれからの時間をより心地よく、豊かなものにしていくための大切な時期です。不満をため込まず、期待を諦めず、お互いを尊重しながら、穏やかな対話を通じて、二人の関係性をさらに深めていくことができるでしょう。